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- アトピー性皮膚炎について
アレルギー体質とはダニやスギ花粉など、ありふれた環境物質に対する特異的IgE抗体を血液中に持つ人のこと。
先進国におけるアレルギー病発生率は、20世紀前半まで2-3%であったのが、現在では約30%。わが国でも1970年代には大学生のうち約25%しかダニやスギ花粉に対するIgE抗体を持っていなかったのが、現在では関東地方の20代の7-8割、全国でも5割以上がアレルギー体質との調査結果があります。ただし、これらのうち半数はごく軽いアレルギー症状のみです。
この20-30年間でヒト遺伝子が急に変化するとは考えにくく、アレルギー体質者の急増は環境の変化が主な要因でしょう。現在ではスギ花粉の増加、住宅の高気密化によるダニの増加だけでなく、細菌やウイルスなどの病原体との接触機会が減ったことが大きな要因と考えられています。
最新の研究結果では、生後数か月間にアレルギー体質になるかどうかが決まるとされています。統計的には、幼児期に細菌やウイルス感染が多いほどアレルギー疾患の頻度は低く、また細菌由来の毒素の多い環境で育つほどアレルギー体質になりにくいことがわかっています。そうかといって、昔は不衛生な環境で育つために乳児死亡率が高かったのであり、一概に不衛生な方がいいとも言えません。
新生児の全身のリンパ節(首や太ももの付け根など、炎症を起こすとぐりぐりと腫れるところ)にはT細胞という細胞がたくさん存在します。細菌やウイルスなど病原性を持つ物質が体内に入ってその情報がリンパ節に伝わると、T細胞は1型ヘルパーT細胞に変わります。一方、ダニや花粉など病原性のない物質が体内に入ったことがリンパ節に伝えられると、T細胞は2型ヘルパーT細胞に変わります。
1型ヘルパーT細胞はB細胞(主に骨髄由来で、感染防御を担う抗体を作る細胞)に病原体を攻撃するためのIgG抗体を作らせます。一方、2型ヘルパーT細胞はB細胞にIgE抗体を作らせて、そのはたらきで、喀痰で気道内から、あるいは下痢をして消化管内から異物を排除しようとします。
これらの1型と2型のヘルパーT細胞は互いに抑制しあう性質があり、リンパ節の中で陣取り合戦をして、小児期にどちらかが多い状態で固まってしまうと、以後その状態は変わりません。大人になると、リンパ節全体で2型ヘルパーT細胞の総数が大きく増減することはなく、環境を変えてもアレルギー体質から非アレルギー体質に変わることはないのです。
現在、わが国では半分以上の人がダニアレルギーを持っていますが、大部分の人はほこりっぽいところでくしゃみ・鼻水が出る程度。ところが、代表的なアレルギー病である喘息患者は、気道のバリアーが破壊されているから、ダニを吸い込むと喘息発作を発症します。
なぜなら、通常は気管支の内側を覆っている粘膜細胞の脱落が無ければ、ダニアレルゲンが体内入り込まないので、決してアレルギー反応が開始しません。ところが、ウイルスなどの呼吸器感染症によって気道粘膜上皮細胞が脱落し、気道のバリアー機能が破壊されると、アレルゲンが体内に入りやすくなります。これが風邪をきっかけに喘息発作を生じるしくみです。
一度傷ついたバリアーが回復する前に喘息発作を起こすとまたバリアーが破壊され、これを繰り返しているうちに気道は細く狭くなり、呼吸困難を生じやすくなってしまいます。このような構造の変化、変形をリモデリングといいます。このことを防ぐには、治療薬を積極的に用いて炎症を生じないように管理し、元に戻らないような気道の変化を生じさせないことです。
アトピー性皮膚炎は肘の内側、膝の裏側など特定部位に湿疹を繰り返す病気です。
アトピー患者の皮膚は、皮膚を覆って保護する脂肪が先天的に少ないために、乾燥しています。(このことは遺伝子で決定しており、その体質を変えるには遺伝子治療が実現しないと不可能です。もちろん、脂肪をたくさん食べてもムダです。)このため、バリアー機能が低下しており、ダニの糞や花粉などのアレルゲンが皮膚の奥まで入り込みやすく、皮膚炎を生じます。
一度皮膚炎を生じると、かゆくて掻くのでさらにバリアーは破壊され、ますますアレルゲンは皮膚に入り込んでアレルギー反応が増強します。
ところが、スギ花粉症ではあるがアトピー性皮膚炎ではない患者の皮膚にスギ花粉をのせても、バリアーの存在によって、それが皮膚の奥に入り込むことはないのでアレルギー反応は生じません。
つまり、喘息と同様に、アレルギー体質であることに加えてバリアー機能の破壊がアトピー性皮膚炎の重要な引き金なのです。
多くのアトピー患者は、アレルギーの存在(ダニやスギ花粉など、特定の物質に対する特異的IgE抗体を持つこと)ばかりを重要視していますが、むしろ皮膚バリアー機能の破壊がその主要な病因です。アレルギー体質であろうとなかろうと、皮膚のバリアーをしっかりと保てばいいのです。
そもそも、血液検査上牛乳にアレルギーがあったとしても、牛乳を飲んで下痢などのアレルギー反応を生じる方は多くありません。それは、牛乳のアレルゲンは胃腸で分解されてから、体内に吸収されるためです。そういった患者でも、牛乳と血液を直接反応させればアレルギー反応が起きます。(つまり、そばに含まれるある種のタンパク質など、消化されにくいタンパク質ほど食物アレルギーを発症しやすいのです。体調を崩して胃腸炎などの際に、消化が悪いために何かを食べてじんま疹を生じてしまうのは、これが理由です。)
本当に食物制限をしなくてはならないケースは多くなく、成長障害を引き起こさないためにも不用意な食物制限は避けるべきです。また、妊娠中、授乳中のアレルゲン(卵や牛乳)制限は無効と、大規模な調査で結果が出ています。アレルゲンを避けるという点では、住まいの掃除と片付けの励行、寝具のダニ繁殖予防だけでいいケースがほとんどです。
1980年代はアレルギー検査が普及し、厳格な食事療法がおこなわれた時代でしたが、現在では、少なくとも皮膚科領域では余程のことがない限りおこなわれないのが主流です。
この素因は、からだを構成するすべての細胞の核に存在する遺伝子に組み込まれており、当然のことながら、この体質は絶対に変えることが出来ません。
様々な民間療法で、体質を改善しないとアトピーは治らないと言われます。そうかと言って、体質を改善すること(=遺伝子を変える=遺伝子治療)は、残念ながら現在の医学では出来ません。遺伝子で決まった血液型を、治療で変えられないのと同様です。(将来は出来るようになるのかもしれません。)
体質が変えられない以上、体質に合わせて生活を変えて、適切な治療と組み合わせていくのが現代の医学の考え方です。
ヒトの体内には多くの種類のホルモンがありますが、それらのうちコレステロール由来の構造を持つものをステロイドと総称します。ステロイドには男性ホルモン(アンドロゲンといって、スポーツ選手のドーピングに使われます)や副腎皮質ホルモンなどがありますが、多くの場合、ステロイドと言えば、これらのうち副腎皮質ホルモンだけを指しています。混同しないで下さい。
副腎皮質ホルモンのはたらきは、人体が肉体的・精神的ストレスを受けた際にさまざまな反応を生じさせるもので、ヒトの生存に欠かせないホルモンです。
数多くあるそのはたらきの一つは炎症を抑えることであり、そのために、合成されたものが薬として使われています。他のアレルギー病と同様に、アトピー性皮膚炎の治療においても、副腎皮質ステロイドの塗り薬が治療の原則です。
副腎皮質ステロイドは炎症を抑える以外のさまざまなはたらきがあるので、薬として使った場合にはさまざまな副作用があります。ただし、塗り薬として使った場合には、最強クラスのステロイド外用薬を頭のてっぺんからつま先まで連日塗り続けない限り、血液中の副腎皮質ステロイド濃度は増加しません。したがって、全身的な副作用はありません。
副腎皮質ステロイド外用薬による副作用はあくまで局所的なもの(皮膚が薄くなる、毛細血管の拡張、ニキビの発生など)ですが、これをなるべく減らすために、塗り薬を使い分ける必要があります。
副腎皮質ステロイド外用薬は強いもの、弱いもので相当な強度差があり、われわれ皮膚科専門医はそれを適切に使い分けていきます。
アトピー性皮膚炎が抑えられていない状態が長く続くと、皮膚は硬く厚くなり、構造が変化すると、もう元に戻りにくくなります。これは、喘息発作を繰り返していると気道が細くなり、より呼吸困難を来しやすくなること(リモデリング)と同じであり、それを防ぐには喘息と同様、炎症を抑え続けることが重要です。
詳しく説明すると、最初の皮膚炎を適切に治療しないと2型ヘルパーT細胞やIgE抗体を大量に作る皮膚になってしまいます。ステロイドの副作用をおそれて使わないことによって、最終的にはより多量のステロイドが必要になってしまうのです。
アトピー性皮膚炎は皮膚のバリアー機能低下による病気なので、早めにバリアーを修復すれば重症化を防ぐことができます。
現在は、アトピー性皮膚炎治療における第一選択薬であるステロイド外用剤にも、かつては問題がありました。1970年代にステロイド外用剤が開発された当時は、皮膚科医を含めてまだ使用経験が浅かったこと、皮膚科医以外の一般医師による濫用、一般薬局・薬店で市販されたことによる不適切使用から、多数の副作用が報告されました。
1990年代になると有名ニュースキャスターがステロイドを悪魔の薬(!?)と呼び、医学的根拠の無い民間療法をマスコミが紹介してしまったり、ステロイド外用剤を中止して悪化症状に耐えた患者を脱ステロイドと美化して伝えるなど、メディアの無知に基づく無責任なステロイドバッシングの時代となります。これにともなって、アトピー関連グッズ販売をおこない利益を得る団体が出現するなど、アトピービジネスが隆盛しました。
その結果、医療不信による無治療で重症化したアトピー患者が多数発生し、社会問題になってしまいました。
現在では、過剰なステロイド不信を訴える患者は極めて少数派になり、むしろ珍しいくらいですが。われわれ皮膚科医も、ステロイド不信によって重症化してしまったアトピー患者を目にする機会が少なくなりました。
インスリン注射が一生必要な糖尿病患者をインスリン依存症とは言いません。降圧薬の内服が必要な高血圧患者を降圧剤依存症と言うこともありません。同じように、ステロイド外用薬が必要なアトピー性皮膚炎患者をステロイド依存症とは言わないでしょう。
さまざまな病気は、根治が可能な急性疾患と、根治が困難な慢性疾患とに大別されます。例えば急性疾患は風邪、傷の化膿などです。根治が困難な慢性疾患の代表が糖尿病、高血圧、あるいはアトピー性皮膚炎です。慢性疾患は、まず体質に合わせて生活を変えて、必要があれば適切な薬物治療を組み合わせていくという点で共通です。
糖尿病の患者は軽症なら食事制限、食後の軽い運動など生活習慣を改善して、人によってはそれだけで充分です。これだけではダメな人は血糖を下げる薬を内服し、それでもダメな人は血糖を下げるインスリンを毎日自分で注射します。
アトピー性皮膚炎の場合、軽症であれば保湿、入浴時に皮膚を擦り過ぎないなどの生活習慣改善をおこない、それだけでは湿疹の出現を抑えられない人はステロイド外用薬を用います。ところが、アトピー性皮膚炎の患者には、今だに根治を求めて根拠のない民間療法に走る方もいるのが実情です。
不思議なことに、数多い慢性疾患の中でもアトピー性皮膚炎だけが、なぜか根治を求める人が多いのです。皮膚病は、素人目にも見てわかるからでしょうか。もちろん、根本的治療が出来れば理想的ですが、残念ながらそれが出来ないのが慢性疾患です。
ステロイド依存という言葉を用いる方は、ステロイド外用薬が嫌いなのでしょう。好き嫌いは自由であり、スキンケアを重視してなるべくステロイド外用薬に頼らないのが基本ですが、適切な治療まで過剰に拒絶してしまうのは問題です。特に、自分自身では治療法を選択出来ない小児の治療を、全国標準のものではなく特殊な治療でおこなった結果があまり芳しくないものであったら、かわいそうなのはその子です。
われわれは、日本皮膚科学会によるアトピー性皮膚炎治療指針に基づいて、医学的根拠のある標準的な治療をおこないます。つまり、日本を代表する大学病院など基幹病院と全く変わらないオーソドックスな治療です。具体的には、スキンケアとともに、ステロイド外用剤を第一選択薬剤とした薬物治療をおこないます。
最近では少なくなりましたが、ステロイド有害説を唱える人は「リバウンド」といって、ステロイド外用剤を中止した時に皮膚炎が悪化することを強調しています。ところが現在、外用薬ではリバウンドは起きないというのが定説であり(ステロイド内服ではあり得ます)、単に外用薬を中止したことによる症状悪化のことをリバウンドと呼んでいるだけのことです。
治療を中止すれば症状が悪化するのは当たり前でしょう。
もはや軽いアレルギー症状が出るのは日本人の基本体質です。というよりこれからアレルギー体質は全人類の標準体質になると思われます。アレルギー体質を予防出来るのが理想ですが、現状では困難であり、根拠のない極端なことはしない方がいいのではと思います。また、そういった医学的に根拠のない治療はお金がかかるようです。
そもそも、アトピー性皮膚炎の最も重要な原因は、乾燥肌による皮膚バリアー機能の破綻です。「アレルギー病」というイメージは捨てて、主に保湿と塗り薬によるバリアーの改善とその維持につとめましょう。
副作用が少なければ少々薬に頼ってもよいのでは、と良い意味で気楽に考えていただきたいと思います。言い換えると、薬を塗ればおさまる程度のアトピーであれば、薬を塗っておさえておけばいいのです。アトピー性皮膚炎は、完治しないが適切な治療で上手くコントロールすればよいということを強調します。

